
海獣の地位向上を求めます
蛇っていいですよね。手足もないのに長い体を起用に使って移動したり巻き付いたり。見ていて飽きません。最近ではペットとしての需要が高まっているらしく、私もYoutubeの動画をつい長時間見てしまいます。口を大きく開けて餌をゆっくり食べる姿が可愛いんですよね・・・。
人によっては見るのも嫌だという人もいますが、地球上で3000種以上いるらしいのでペットとして適している種がいたり、毒があってガチで危険な種もいたりと、まぁ蛇の中にも人間や他の動物と一緒で色々な奴がいるってことですね。
宗教や文化的な観点からみてもその特異な見た目から場所によっては崇められたり蔑まれたり、色々な文脈を付与されやすい動物なので一度じっくり調べてみるのも面白いかもしれません。
そんな蛇が大活躍する(?)映画が今回感想を書く『ズートピア2』です。
蛇や爬虫類の話をする前に、前作ではあまり描かれていなかった、セイウチやビーバーといった水辺に棲む哺乳類の動物(海獣類や海生哺乳類と言うらしい)に触れておきましょう。マーシュ・マーケットという漁村のような所で生活しているのですが、他の動物より擬人化度が低くビーバーのニブルズ以外は碌に言葉を喋らずギャグ的なシーンの為だけに作られている印象がしました。イルカなんかはそのまんまイルカでびっくりしました。他の動物と比べて擬人化が難しいのは分かりますし、違う文化圏に行くことによるカルチャーギャップコメディー的な面白さを目指しているのは分かりますが、貨幣による経済が成り立たないのをギャグにしたり、他の哺乳類より文化レベルを下にしている感じが気になりました。
マーシュ・マーケットの作り自体もっと面白くできる要素があったと思います。移動用の水路チューブがマーケット中に通っていたり、水の中にも家や店があったり、陸棲と水棲の動物が一緒に工夫して生活している様子などをもっと見せてほしかったです。
前作の美点のひとつであった「多様な違いを持つ動物たちが工夫して一緒に暮らしているズートピアという都市自体が面白いし魅力的」だったのに対して、今作で世界観を拡張したにもかかわらずその部分のワクワク感がなくて残念でした。
あと動物たちが普通に魚や昆虫を食べる描写があって、今後どんなに続編が作られても『ファインディング・ニモ』や『バグズ・ライフ』みたいな世界とは交わらないのかとちょっと残念(?)でした。
もっと爬虫類が見たかった…
蛇や爬虫類がフィーチャーされている今作ですが、実のところ蛇や爬虫類の話はほとんど語られていません。話の中心は前作から続投のウサギのジュディ・ホップスと狐のニック・ワイルドで、この2人から視点がずれることはほとんどありません。
もちろんゲイリーが蛇というだけで恐れられる描写があったり、迫害の歴史が語られたりはしましたが、ゲイリー自身の迫害された体験や外国にいるという爬虫類たちの状況が絵的に映されたりはしないので、この問題がどこまでひっ迫した問題なのかが分からずに映画全体に緊張感がありません。権力者の植民地主義を寓話として描いているのは分かりますが、土地を追いやられる側の視点があまりにも少なすぎると思います。
前作の展開をあえてなぞった悪役であるパウバートの裏切りにも納得がいきません。前作悪役だった羊のベルウェザーは羊はおとなしく人畜無害といった無意識な思い込みを逆手に取った配役だったはずですが、今回は悪そうな動物の悪そうな一族のひとりが良いもんかと思ったら実はやっぱり悪もんで意外性や驚きはあまりありませんでした。
悪役はパウバートよりも陰謀論を語るポッドキャスト配信者(公式サイトに書いてある!)のニブルズの方が向いてそうです。っていうか普段は陰謀論を垂れ流しておいて、たまたま爬虫類に関しては本当だった、はなかなかタチが悪いというかそもそも陰謀論を語るポッドキャスト配信者なんて善玉なキャラクターとして子供向けのアニメーション映画で出していいのか・・・。
それにしても100年前とはいえ爬虫類が丸ごと追い出されたのに他の動物たちはまるで疑問を抱かないとは・・・。よっぽどヤマネコの流すプロパガンダが優秀だったのか。
兎+狐>蛇
一方ジュディとニックが対立する理由はちょっと興味深かったですね。社会的・政治的な問題に対して正義感を持って行動するジュディと、問題だとは思っていても自らの身を犠牲にするほどじゃないと思っているニック。
他者の問題に対する関心度の違いですれ違いを起こすのは、SNSによって得られる情報の先鋭化が起こっている現代を表しているようで面白いと思うと同時に暗澹たる気持ちがしましたね。他人を助けることは自分を助けることにもなるのに・・・。
だからこそゲイリーにはもっと自分の体験を2人に語ってほしかったです。あまりにもジュディ&ニックの物語が前面に出すぎていて、肝心の爬虫類の問題が後景化してしまった感じがしました。
事の始まりは蛇には毒があって危険だという他の動物たちの差別意識や無関心が問題なはずなのに、それを是正せぬままの状態で爬虫類たちがズートピアに帰ってきても同じようなことが繰り返されるだけなのでは・・・。
以上、『ズートピア2』感想でした。
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